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電池なしで光る名刺基板を作る(1)企画から発注まで

電池を持たず、スマホをかざすと LED が光る名刺を、電子回路の板(基板)で作っています。公開されている設計データを使い、JLCPCB(中国の基板メーカー)に部品のはんだ付け(実装)まで頼んだところ、発注したその日の夜に、工場の審査で生産が止まりました。企画から、生産が動き出すまでの記録です。

読む時間 11 分山本 雄斗
この記事の要点
名刺基板の表面。外周に金色のアンテナ、中央にロゴ・URL・名前・キャラクター・QR コード

表

名刺基板の裏面。ロゴ、キャッチコピー、URL、出典表記

裏

発注した基板を、基板設計ソフト KiCad の 3D 表示で見たもの。実物の写真は(2)で載せます。

01なぜ基板から作るのか

「NFC 名刺」は、お金を払えば簡単に作れます。NFC(Suica やスマホ決済と同じ、かざして通信する仕組み)のタグが入ったカードを買い、スマホのアプリで自分のサイトの URL を書き込めば完成です。ただ、それでは技術の要素がありません。組込み(機械や装置に入る電子回路とプログラム)を仕事にしている自分の名刺なら、基板から作りたいと考えました。

とはいえ、ゼロから設計するつもりはありませんでした。公開されている設計を探して中身を読み、部品をそろえ直して、実際に作れるところまで持っていく。これは仕事でもよくある場面です(他社の図面をもとに作る、前任者の設計を引き継ぐ)。今回はその力を見せる題材にしました。

02元にした設計

元にしたのは、Wilson Harper さんが 2026 年 8 月に公開した WiHarper/nfc_card です。作者は KiCad の設計データと、マイコンのプログラム(ファームウェア)を一式公開していて、実物も動かしています。仕組みは次の 3 つです。

技術メモ:部品と数値
部品役割
NFC チップ
NXP NT3H2111
NTAG I2C plus 1k。NFC で通信し、受け取った電力の余りを VOUT 端子から出す(エネルギーハーベスト)
マイコン
ATtiny816
消費電力を抑えるため 1 MHz で動かす
LED赤 20 個を、マイコンのピン 5 本で切り替えて光らせる(チャーリープレクス)。黄 1 個は電源表示
電源まわりデータシートでは、VOUT につなぐコンデンサは 220nF までとされている。元の作者は、LED を光らせるための 10µF を、最初は 2.2kΩ の抵抗を通してゆっくり充電し、マイコンが動き出した約 0.3 秒後に MOSFET(電子スイッチ)で抵抗を迂回する工夫をしている。データシートの想定の外の使い方なので、この基板でうまく動くかは(2)で確かめる
アンテナ銅の外寸 84×53 mm、4 巻き、線幅 1 mm・間隔 0.5 mm。約 2.75µH で、チップ内蔵のコンデンサと組み合わせて NFC の周波数(13.56 MHz)付近に合わせてある。1.5pF のコンデンサ(C1)は微調整用

今回は、基板の製造と部品の実装までを頼みました。届いたあとで、マイコンのプログラムと NFC の URL を自分で書き込みます。この基板はまだ動作を確かめていません。

使う前に、ライセンス(使ってよい条件)も確認しました。改変して配ってよいライセンスですが、配るときの条件があります(09 章で書きます)。

03最初の迷い:日本の名刺サイズにするか

最初は、日本の名刺の大きさ(91×55 mm)にそろえるつもりで、外形を引き直し、アンテナの計算も始めていました。

ところが、元の設計の大きさ(85.45×54.08 mm)はクレジットカードとほぼ同じで、日本の名刺のほうが大きいのです。91 mm にすると財布のカード入れに入らなくなるので、元の大きさに戻しました。アンテナも部品の配置も、動作実績のある元の設計のまま使えるので、1 枚目としてはこれが一番安全です。

04シルク(表面の印刷)を作る

シルク:基板の表面に印刷する文字や絵。レジスト:銅を覆う保護膜で、基板の「地の色」になる部分。

元の設計のシルクには、作者の名前・連絡先・QR コードが入っています。これを消して、ロゴ、URL、名前、QR コード、当社のキャラクター「ちょふまる」に差し替えました。裏面には、元の作者の設計であることの表記(出典)を入れています。元の設計の NFC マークと、アンテナの銅を見せるためにレジストを抜いた部分は残しました。表面処理を金めっき(ENIG)にしたので、金色の渦巻きが見えるはずです。

色は白いレジストに黒いシルクで、紙の名刺に近い見た目にしました。QR コードは、白黒が反転していると読めない読み取りアプリもあるので、普通の向き(暗いマス目を黒で刷る)で作りました。作った画像で読めることは確かめてあり、刷った実物で読めるかは(2)で確かめます。

文字は、KiCad の標準の一筆書きの文字ではなく、フォントの輪郭を使いました。ちょふまるは、元の小さな絵をそのまま使うと線がガタガタになるので、輪郭をなめらかに取り直しています。

KiCad 標準の一筆書きの文字で書いた URL と名前

KiCad 標準の一筆書きの文字

フォントの輪郭で描いた URL と名前

フォントの輪郭で描いた文字

ちょふまるの輪郭。左は線がガタガタで小さな穴が残っている、右はなめらか
左:小さな画像からそのまま輪郭を取ったもの。右:取り直したもの。
技術メモ:シルクの作り方

メールアドレスは、あえて刷っていません。名刺の写真をこうした記事や SNS に載せたいので、画像にメールアドレスが残るのを避けました。連絡先は、スマホをかざして開くページで渡します。

05JLCPCB に発注する

ガーバー:基板を作るためのデータ。BOM:部品表。CPL:部品を置く位置と向きの一覧。フットプリント:基板上の、部品をはんだ付けする場所の形。パッド:部品をはんだ付けする銅の台。捨て基板:製造の都合で基板の周りに付ける余白の板。

JLCPCB に実装まで頼むときは、ガーバー・BOM・CPL の 3 つをアップロードします。KiCad が出力したファイルはそのままでは読み込めなかったので、工場の書式に合わせて直しました。

技術メモ:JLCPCB 用のファイル

設定は次のとおりです。

実装には、安い「エコノミック実装」もあります。ただ、今回の「厚さ 0.8 mm・白・金めっき」の組み合わせでは選べませんでした。緑のレジストと、はんだのめっきに替えれば選べて、10 枚で比べると約 105 ドルが約 65 ドルに下がります(どちらも送料別)。それでも、名刺として見た目を優先しました。

JLCPCB の部品配置プレビュー。右の表で C1 の部品番号が C1639 になっている
部品配置のプレビュー(シルクは発注前の版)。右の表の一番上、C1 に当てられた部品番号は C1639。このときは、これが間違いだとは気づいていません。

2026 年 9 月 18 日の午後に発注しました。30 枚で、商品代 162.92 ドル、送料 9.82 ドルでした。

06工場の審査で止まった:LED の向きと部品サイズの食い違い

発注から約 5 時間後、実装の審査担当からメールが届きました。確認したいことが 2 つあり、回答するまで生産は止まる、という内容です。

その 1:LED の向き

赤い LED の向きが合っているかの確認でした。調べると、JLCPCB 側の部品データでは、同じメーカーの赤い LED と黄色い LED で「1 番ピンがどちらか」の流儀が逆になっていました(赤は 1 番ピンがプラス側、黄はマイナス側)。

部品データの表記はうのみにできないので、基板の配線を LED からマイコンのピンまでたどり、プログラムが「どのピンをプラスにして、どの LED を光らせるか」と突き合わせました。設計どおりの向きなら、光る場所が円周に沿って 1 つずつ進みます。これで、JLCPCB から届いた配置図の向きが正しいと確かめて回答しました。流儀が逆の黄色い LED の向きも、念のため確認してもらっています。

その 2:C1 が「パッドより大きい」

こちらは本物の間違いでした。アンテナ微調整用のコンデンサ(基板上での呼び名は C1)の場所は、0402 サイズ(1.0×0.5 mm)です。ところが部品表に書かれていた部品番号(JLCPCB の部品カタログの番号)C1639 は、ひと回り大きい 0603 サイズ(1.6×0.8 mm)の部品でした。そのまま載せると、はんだ付けがうまくいかない恐れがあります。

この食い違いは、元の設計の回路図からそのまま持ち越したものです。KiCad は、フットプリントと部品番号を別々の欄に書く仕組みで、両者のサイズが違っても警告しません。JLCPCB の部品照合の画面でも、今回は C1 に個別の警告は出ず、表の下に「選択した部品のパッケージをよくご確認ください」という一般的な注意があるだけでした。同じ行の説明には「0603」と出ていたのですが、見落としていました。

JLCPCB の部品照合の画面。C1 のフットプリントは 0402、当てられた部品の説明には 0603 とある
発注前の部品照合の画面。C1 のフットプリントは 0402(C_0402_1005M…)なのに、当てられた部品 C1639 の説明には「0603」とあります。

指摘を受けて、部品表の全 13 品目について、部品番号から調べた実際のパッケージとフットプリントのサイズをプログラムで照合し直しました。食い違いは C1 だけでした。

審査担当からは、「C1 を載せない」か「パッドに合う部品に替える」かを選ぶよう言われました。計算上は、C1 を付けなくてもアンテナの合わせ具合が 1.5% ほどずれる程度ですが、元の設計の調整を守るため、同じメーカー・同じシリーズで 0402 サイズの部品(カタログ番号 C1552、電気的な仕様は同じ)に替えると回答しました。差し替えの操作は次の章で書きます。

教訓:他人の設計で発注するときは、部品表の全部品について、実際のパッケージとフットプリントのサイズを突き合わせる。一覧を目で追って気づくのは難しいので、発注の前にプログラムで照合しておくのが確実です。

07治具費 25 ドルが後から加わった

部品の差し替えは、注文履歴の「Replace Parts」から自分で操作します。ところがこの画面を開くと、注文全体が今の料金で見積り直され、発注時にはなかった「PCB assembly fixture」が約 25 ドル(約 3,900 円)加わっていました。治具とは、薄い基板を実装の機械に通すときに支える台のことです。

工場は 9 月 25 日・27 日と、10 月 1 日からの連休で休みになるので、急いで問い合わせました。

  1. 9 月 20 日、最初の担当:「この注文に追加の支払いの記録はない」。専門の担当に回してもらう
  2. 9 月 21 日、専門の担当から:「この注文に治具費は付かないはず。システムの不具合かもしれない」
  3. 同じ日の夕方、生産を遅らせないよう、C1 を差し替えて追加分を支払う。ここで生産が動き出しました
  4. 9 月 22 日、最終回答:「治具費は必要」

担当者の説明では、発注したまさにその日(9 月 18 日)に工場の生産要件が更新され、治具が必要になる基板の厚さが「0.8 mm 以下」に変わったそうです。発注の時点では、新しい要件がまだ見積りに反映されていませんでした。部品を替えなくても、あとから加算されていたとのことです。

教訓:厚さ 0.8 mm 以下の基板で実装まで頼むときは、治具費がかかる前提で見積もる。治具費は 1 個 8.21 ドルで、何個要るかは厚さではなく枚数で決まります(29 枚以下は 2 個で約 16 ドル、30〜99 枚は 3 個で約 25 ドル。2026 年 9 月時点の公式料金表)。今回は生産を止めたくなかったので、厚さなどは見直さずに、支払って先へ進めました。

08かかった費用

内訳(30 枚)米ドル
基板58.06
部品の実装(部品代を含む)104.86
送料9.82
追加(治具費など)25.63
合計(約 31,000 円)198.37

追加のうち 24.63 ドルが治具費で、残りの約 1 ドルは注文全体を見積り直したときに出た差です(C1 の部品代の差は数円)。

1 枚あたり約 1,050 円です。届いたときに消費税と通関の手数料がかかるので、確定額は(2)で書きます。枚数を増やすと 1 枚あたりは下がり、試算では 100 枚なら 600 円台です(部品代は 1 枚約 260 円で枚数に比例し、段取りなどの約 6,000 円は枚数によらないため。届いたときの税は別)。

09設計データを公開する

元の設計のライセンスは、基板が CERN-OHL-S v2、ファームウェアが GPL-3.0 です。どちらも改変して配ってよいライセンスですが、名刺を人に渡すのは「製品を渡す」ことにあたるので、条件があります。基板は、変更後の設計データを受け取る人に渡すか、その入手場所を知らせる必要があります。ファームウェアも、書き換えるかどうかにかかわらず、書き込んだ基板を配るなら、そのソースを入手できるようにしておく必要があります。

今回は、どちらも公開して、その場所を案内する方法にしました。変更後の設計データを GitHub(設計データやプログラムを公開する場所)で公開し、元の設計を引き継いだ形(フォーク)にして、変更点をまとめています:chofu-lab/nfc-card。書き込むファームウェアのソースも、ここに置きます。

基板の裏には元の設計の名前しか刷っていないので、名刺を受け取る人には、スマホをかざして開くページにこの公開場所へのリンクを置いて知らせます(名刺を配る前に対応します)。

公開の前には、自分での見直しに加えて、AI(Claude と Codex)にも設計データと説明文を突き合わせてもらい、説明の誤りをいくつか直しました。直した内容は、公開場所の変更履歴に残しています。

10公開設計で発注する前のチェックリスト

今回の経験から、他人の公開設計を JLCPCB で実装まで頼むときに確かめることをまとめました。

11この経験が役立つご相談

今回やったことは、仕事の場面に置き換えると、次のようなご相談に役立ちます。

基板づくりや試作のご相談は、お問い合わせからどうぞ。

12次回

基板が届いたら、マイコンへの書き込み、NFC への URL の書き込み、実際に光るかどうか、スマホの機種による反応の違い、確定した費用を(2)で書きます。光り方のパターンを 9 種類に増やした話も、そこで紹介します。

続きは (2)届いた基板に書き込んで光らせるまで に書きました(2026-10-07)。

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この基板は WiHarper/nfc_card(CERN-OHL-S v2 / GPL-3.0)をもとにしています。変更後の設計データは github.com/chofu-lab/nfc-card にあります。設計の作業には KiCad 10 と、AI の Claude Code を使いました。